SARM

ACP-105

ACP-105は、ACADIA Pharmaceuticals社が発見し、2009年に初めて報告された、実験段階の非ステロイド性選択的アンドロゲン受容体調節薬(SARM)です。SARMは、筋肉や骨のアンドロゲン受容体を活性化する一方で、前立腺などの組織への作用が小さくなるように設計された化合物です。ACP-105は承認された医薬品として開発されたことはありません。

ACP-105について最も重要な事実は、これまで細胞、動物、アンチ・ドーピング検査機関でしか研究されていないという点です。有効性や安全性を調べたヒトの試験は、発表も登録もされていません。それでもオンラインで販売されており、アンチ・ドーピング検査機関はヒトと馬の検体でこの物質を検出する検査法を整備しています。

このページでは、発見時の論文、その後の動物研究、アンチ・ドーピング研究、規制当局の報告をまとめています。内容は教育目的のものであり、医学的助言ではありません。

項目 詳細
薬剤クラス 非ステロイド性SARM。トロパノール(8-azabicyclo[3.2.1]octane)系の化学クラス
開発元 ACADIA Pharmaceuticals社。2009年に初めて報告
化学的性質 C₁₆H₁₉ClN₂O、290.8 g/mol(PubChem CID 11638442)
アンドロゲン受容体への活性 テストステロンに対する部分作動薬(細胞を用いた試験)
研究された用量 動物および細胞の研究のみ。ヒトでの有効性・安全性の研究はなし
半減期 ヒトでの値はなし。静脈内投与後、イヌで約2.1時間、ラットで約2.5時間
ヒトでの試験 発表なし。ClinicalTrials.govでも確認されず
米国での位置づけ FDA未承認。FDAはSARMを栄養補助食品としても医薬品としても合法的に販売できないとしている。DEAのスケジュールIIIには記載なし
WADAの状況 SARMとして常時禁止(S1.2、その他のアナボリック作用物質)

概要

ACP-105の化学名は、2-chloro-4-[(1R,5S)-3-hydroxy-3-methyl-8-azabicyclo[3.2.1]octan-8-yl]-3-methylbenzonitrileです(PubChem)。わかりやすく言うと、ニトリル基、塩素原子、メチル基を持つベンゼン環が、窒素原子を介して、ヒドロキシ基とメチル基を持つトロパン様の二環構造につながった分子です。ステロイド骨格を持たないため、テストステロンのように体内でエストロゲンやジヒドロテストステロン(DHT)に変換されることはありません。

ACADIA社の研究者らは、R-SAT(receptor selection and amplification technology、受容体選択・増幅技術)と呼ばれる、細胞を用いた受容体活性化試験によるハイスループットスクリーニングで、ACP-105のもとになった化合物群を見つけました(Schlienger et al., J Med Chem 2009)。この論文は、ACP-105をテストステロンに対して部分作動薬としての活性を示す強力なSARMと記述しています。部分作動薬は受容体を活性化しますが、完全作動薬より最大反応が小さくなります。同じ化学系列からは、アンドロゲン受容体の遮断薬もいくつか得られました。

アンチ・ドーピングの化学者は、ACP-105を、ACADIA社の先行化合物であるAC-262536とともに「トロパノール」系SARMとしてまとめています(Stacchini et al., J Pharm Biomed Anal 2021)。オスタリン、リガンドロール、RAD-140など、このライブラリーの他のSARMは別の化学クラスに属し、そのうちいくつかには少なくとも一部のヒト試験データがあります。ACP-105にはありません。

細胞を用いたデータ

発見時の論文のin vitroの結果は、ChEMBLデータベースに整理されています(ChEMBL)。

試験(ヒトではなく細胞) ACP-105の結果
通常のアンドロゲン受容体、R-SAT試験:効力(EC50) 約1 nM
通常のアンドロゲン受容体、R-SAT試験:最大効果 DHTの反応の81%
変異型受容体(一部の前立腺がんで見られるT877A):最大効果 DHTの反応の37%

EC50は、化合物の最大効果の半分が得られる濃度です。これらの数値は、遺伝子操作した細胞での受容体活性化を示すものであり、ヒトでの作用や安全な曝露量を予測するものではありません。

体内での動態

ACP-105のヒトの薬物動態データは発表されていません。ヒトでの吸収、ピーク濃度、半減期は測定されていません。測定値は、発見時の論文から整理されたもので、動物と、実験室の肝細胞によるものだけです(ChEMBL)。

指標 結果 モデル
静脈内投与後の消失半減期 約2.5時間(147.5分) ラット
静脈内投与後の消失半減期 2.1時間 ビーグル犬
経口バイオアベイラビリティ 38% ラット
経口バイオアベイラビリティ 56% ビーグル犬
代謝安定性の半減期 5時間 培養したヒト肝細胞(血中半減期ではない)

2025年のコンピューターモデリング研究は、約1.18時間という短い半減期、主に肝酵素CYP3A4による広範な分解、脳への移行を予測しました(Fijałkowska and Jurowski, Arch Toxicol 2025)。これらは予測であり、測定値ではありません。マウスを用いた研究は、ACP-105が血液脳関門を通過することを示す動物データを引用しています(George et al., ACS Chem Neurosci 2013)。

半減期の数値について。 ウェブサイトでは、ACP-105の半減期が、あたかもヒトで測定されたかのように、時間単位の正確な値で示されていることがよくあります。実際にはヒトでの測定はありません。測定値はラットとイヌのものであり、コンピューターによる予測値は、実験室での肝細胞の値とも異なります。

代謝

ACP-105の分解について知られていることの大部分は、アンチ・ドーピング研究に由来します。

研究 モデル 主な知見
Thevis et al., Eur J Mass Spectrom 2014 ラット、経口投与 主要な第I相代謝物7種(モノヒドロキシ化体3種、ビスヒドロキシ化体4種)。ラットの尿中でそれぞれ最長4日間および6日間検出可能
Subhahar et al., Drug Test Anal 2021 競走馬、経口投与 尿中に代謝物19種。ACP-105とその代謝物は最長72時間検出
Broberg et al., Metabolites 2021 馬、経口投与、およびヒトと馬の肝臓標本 血液と尿から代謝物21種を暫定的に同定(グルクロン酸抱合体を含む)
Broberg et al., J Chromatogr B 2023 ヒト肝臓標本、およびヒトの低用量単回投与後の尿検体一つ in vitroで代謝物18種。ヒトの尿では7種で、主にヒドロキシ化体とグルクロン酸抱合体

2023年の研究は、ヒトの曝露に関して発表された唯一のデータです。ドーピング検査のマーカーを見つけるために、投与後の尿検体一つを分析したものです。作用、安全性、血中濃度は測定していません。

研究でわかっていること

ラットでの研究

筋肉に関して発表されているデータは、ACADIA社による去勢した雄ラットでの2週間の研究だけです(Schlienger et al., 2009)。去勢によって動物自身のテストステロンがなくなるため、アンドロゲン様の作用はすべて被験物質によるものと考えられます。論文は、ACP-105がアナボリックな指標を改善したと報告しています。ChEMBLには、この研究から次の結果が記録されています(ChEMBL)。

組織(去勢ラット、14日間、皮下ポンプ) 去勢による減少の回復率
肛門挙筋(アンドロゲンに感受性のある小さな骨盤の筋肉)、1 mg/kg/日 67%
前立腺、0.3–3 mg/kg/日 21%

このラットモデルでは、この化合物は前立腺よりも筋肉をより多く回復させました。このパターンが、SARMにおける「組織選択性」の意味です。ラットの臓器重量は、同じ選択性や何らかの利益がヒトでも生じるかどうかを示すものではありません。

アナボリック:アンドロゲン比について。 オンラインの情報源では、ACP-105について正確なアナボリック:アンドロゲン比が示されていることがよくあります。一次文献ではそのような値は見つからなかったため、ここでは繰り返しません。上のラットの数値は異なる用量範囲のものであり、比ではありません。

マウスでの脳と行動の研究

ACP-105は、脳の老化のマウスモデルでも、研究ツールとして試験されました。

  • 放射線モデル。 10 Gyの放射線を照射した雌マウス(各群7–8匹)では、溶媒を投与した照射マウスはバランス課題(ロータロッド)の成績が低下しましたが、ACP-105を投与した照射マウスでは低下しませんでした。ACP-105は、記憶の試験である手がかり恐怖条件づけも高めました(Dayger et al., Brain Res 2011)。
  • アルツハイマー病モデル。 アルツハイマー病に似た変化を起こすように遺伝子操作した去勢雄マウスでは、ACP-105単独で不安様行動が減少しました。アミロイドβの濃度を下げ、空間記憶を改善したのは、ACP-105とエストロゲン受容体β作動薬(AC-186)の併用だけでした(George et al., 2013)。

これらは、脳に関する指標を調べた小規模な動物研究です。ヒトの筋肉、パフォーマンス、安全性については何も示していません。

ヒトでの証拠

ありません。ACP-105の作用を調べた発表済みのヒト研究は見つからず、ClinicalTrials.govを検索しても登録された試験はありませんでした。健康な成人におけるSARMの安全性に関する2023年のシステマティックレビューには、臨床試験18件と症例報告または症例集積15件が含まれていましたが、ACP-105に関するものはありませんでした(Vignali et al., J Xenobiot 2023)。

したがって、ACP-105によってヒトで筋肉が増える、脂肪が減る、筋力・持久力・回復が向上するといった主張は、対照を置いた証拠に基づくものではありません。

副作用とリスク

この化合物に固有のヒトでの安全性データはない

ACP-105はヒトで安全性が試験されたことがないため、副作用、安全な曝露範囲、相互作用はわかっていません。2025年の二つの研究は、心拍リズム(hERG)への影響や変異原性を含むACP-105の毒性(Fijałkowska and Jurowski, Arch Toxicol 2025)と、体内での処理(Fijałkowska and Jurowski, 2025)を、コンピューターモデルだけで予測しました。こうした予測は、実験室での検証に向けた問いを示すことはできますが、ヒトでの安全性や害の証拠ではありません。

アンドロゲン受容体作動薬であるACP-105は、他のアンドロゲンと同様に、体内のテストステロン産生を調節するホルモンのフィードバック機構に作用すると考えられます。ヒトでそれがどの程度強く起こるかは、測定されたことがありません。

クラス全体のリスク

FDAは、SARMはFDAに承認されておらず、研究や報告によって深刻な、あるいは生命を脅かす問題との関連が示されていると警告しています(FDA, 2023)。具体的には次のものが挙げられています。

  • 心臓発作や脳卒中のリスク増加
  • 肝障害と急性肝不全
  • 精神病症状や幻覚、睡眠障害
  • 性機能障害、不妊、精巣の萎縮
  • 流産

発表されている症例データは肝臓に集中しています。

情報源 わかったこと(SARM全体)
Vignali et al., 2023、システマティックレビュー、33件の研究 薬物性肝障害15例、アキレス腱断裂1例、横紋筋融解症1例。SARMに曝露した試験参加者では、ALT(肝酵素)の上昇が平均7.1%で見られた
Leciejewska et al., Eur J Clin Pharmacol 2024、報告症例のレビュー 2020年以降に発表された有害事象の報告20件。大半は黄疸を伴う胆汁うっ滞性または肝細胞性の肝障害

これらの所見は他のSARMに関するものであり、ACP-105そのものに関するものではなく、すべての化合物に等しく当てはまるとは考えられません。

品質と混入物

ACP-105は、医薬品の品質管理のもとで製造されているわけではありません。オンラインでSARMとして販売されていた44製品を調べたJAMAの分析(Van Wagoner et al., JAMA 2017)では、次の結果でした。

所見 製品数
1種類以上のSARMを含有 44製品中23製品(52%)
SARMの代わりに、またはSARMに加えて、他の未承認薬を含有 44製品中17製品(39%)
ラベルに記載のない物質を含有 44製品中11製品(25%)
有効成分を含まない 44製品中4製品(9%)
含有量がラベルと一致 44製品中18製品(41%)

検出されたSARMは、オスタリン、LGD-4033、アンダリンでした。したがって、購入者は、ACP-105と表示された製品に実際に何がどれだけ含まれているのかを確かめることができません。

法的位置づけとアンチ・ドーピング

  • 米国。 ACP-105は承認された医薬品ではありません。FDAは、SARMは「米国では栄養補助食品としても医薬品としても合法的に販売できない」としています(FDA, 2023)。DEAのスケジュールIIIに挙げられているアナボリックステロイドには含まれていません(21 CFR 1308.13)。
  • スポーツ。 SARMは2008年からWADAの禁止表国際基準(Prohibited List)に載っています(Thevis and Schänzer, Mol Cell Endocrinol 2018)。2026年版のリストは、S1.2「その他のアナボリック作用物質」のもと、競技会の内外を問わず常時、SARMを非特定物質として禁止しています(WADA 2026 Prohibited List)。リストに挙げられた例はすべてを網羅するものではないため、ACP-105は名指しされていなくても対象に含まれます。

検査機関は、ACP-105を含む検査法を整備しています。

検体 状況 情報源
標準物質 ACP-105をスポーツのドーピング検査法に加えるためのフラグメンテーションデータ Thevis et al., Rapid Commun Mass Spectrom 2013
ヒトの尿 バリデーション済みの複数SARM一斉分析法。スクリーニングした化合物全体での検出能は0.1–1.0 ng/mL Stacchini et al., 2021
ヒトの尿 検査対象として提案されたモノヒドロキシ化代謝物二つ Broberg et al., 2023
ヒトの毛髪 SARM 9種と代謝調節薬2種のバリデーション済みスクリーニング Gheddar et al., J Chromatogr B 2021
馬の尿と血漿 馬のドーピング管理のための代謝物標的 Broberg et al., 2021、Subhahar et al., 2021

要点

  • 未承認の研究用化合物です。 ACP-105はACADIA Pharmaceuticals社の非ステロイド性SARMで、2009年に報告されましたが、医薬品として承認されたことはありません。
  • 前臨床データのみです。 細胞ではアンドロゲン受容体の部分作動薬であり、去勢ラットでは2週間で前立腺の重量よりも骨盤の筋肉をより多く回復させました。
  • ヒトでの試験はありません。 有効性、安全性、血中濃度に関する発表済みのヒトのデータはなく、登録された試験もありません。ヒトのデータは、ドーピング検査のための代謝物の分析だけです。
  • 半減期の主張はヒトのデータではありません。 測定された約2–2.5時間という半減期は、ラットとイヌのものです。
  • クラス全体のリスクと信頼できない製品。 FDAはSARMを肝障害などの深刻な害と関連づけており、SARMとして販売されている製品はしばしば表示が不正確です。
  • スポーツでは禁止されています。 WADAはすべてのSARMを常時禁止しており、アンチ・ドーピングの検査法はすでにACP-105とその代謝物を検出できます。

出典

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